怠惰な日々

 *blogではありません。日記です。

パティ・スミス

体調は万全、少し早目に出て西梅田へ。ビルボードライブ大阪は通路からは何度も見たが、こうして入場待ちの群れに加わるのは初めてだ。
システムはライブハウスやホールでのコンサートと全く違い、まずデスクで受付してから入場待ちの列に加わるもので、その列も10番ごとに作られるから長く伸びることもない。その分、人手はかかる。黒服の男女が忙しく立ち働いて、しかも実に丁寧でそつがない。お見事だ。
という、パティ・スミスのアコースティックライブ。以前チケット価格の高騰を嘆いていたパティにしては16,500円のチケット代だが、およそ200人程度の会場とあらば幾らだって出す。よくぞチケットが取れたものだ。
中に入ってもゆっくりとした進み方で、ご案内のお姉さんに一組づつ誘導される。手早くさばきつつもバタバタせず、口調は丁寧だがそれなりにきっぱりとし、そして揃って美人。こういう会場ならチケット代も高いし飲食代が高いのもわかる。なにしろドリンクが約1,000円って別世界だ。
僕はコーヒーを飲みながら読書し開演を待つ。60番台ってどうなんだと思ったところ、センター後方くらいの席は取れて、パティとは6mくらいの距離だろうか。ハイタッチなんかは望めないが、見やすいし音もよさそうないい席だ。
お客さんは当然のように年配で30歳くらいの人ですら珍しく、そしてだいたいお金ありそう。そりゃそうか。普通ならアーティストのTシャツを着てる人が多いはずなのに、今夜は僕を含めてもちらほら程度。なにもかもがライブハウスとは違うし、そういえばコーヒーも普通においしい。普通の喫茶店飲食店よりは割高だろうが、食べ物もそれなりに美味しいのが出てるんだろう。
定刻にOAのジェシー・スミスとテンジン・チョーギャルが登場。このテンジン・チョーギャルが印象的な声で素晴らしいアクトを見せ、期待以上のステージだった。できればもう少し見たかったくらい。真言の「オン・パ・ニ・ペ・メ・フン」の合唱を促してたけど、チョーギャルの声に重ねるのがはばかられすぎてそりゃ無理でよ。
その後あまり間を置かずにパティとレニー・ケイ、ジェシーが登場。あまりに早かったので斜め前の女性はダッシュで戻ってきていた。
アコースティックライブとはいえパティの声は力強く、彼女らしいパンクのイメージは全く崩れない。3年ほど前の渋谷AXではバンドながらもっと優しげなイメージだったが、うれしい誤算。それにレニーも前回は終盤で疲れてきたように見えたけれども、今回はお昼に1ステージこなした後でありながらかなり元気。前日にもサケをたくさん飲み酔いつぶれてホテルに戻ったとのことだったのにこの様子だから、ほんとに元気なんだろう。
MCでは前日のキャンドルナイトや十三で飲んだことに触れていて、僕もキャンドルナイト行っておけばよかったなというのは後の祭り。
パティはギンズバーグの朗読をして、これがまさにパティ・スミス。ポエトリー・リーディングがパティの原点であり今もそれがパティそのものなのだとはっきりとわかる。ポエトリー・リーディングはやはりパーソナルなところで触れたいし、そういう意味では今回の会場規模は本当にありがたい。もし次回の来日・来阪があるなら、またこうした企画をお願いしたいところ。
そしてこの朗読から流れるようにWhen Doves Cry。これも曲中にポエトリー・リーディングを入れてきて、「羽が舞い落ちる、〜の、パープルの、〜の、」というくだりもあり、本当にパティはジミヘンに始まり多くの人々を見送ってきたのだと実感する。
そして追悼といえばもう1曲、エイミー・ワインバーグに捧げるThis is the Girl。しかしこれがうまくいかない。1度ミスるのはよくあることだが、三度も止まってしまうのはかなり珍しい。しかしこの状況で観客を沸かせるのがさすがにパティで、「お昼にはちゃんと出来たのに」と苦笑しつつも、「じゃあ違うのをやるわ」とジェシーに近寄って耳打ち。え、わからないわよと戸惑うジェシーを余所にスタートさせたのはGloria。ジェシーもわからないと言いつつしっかりとピアノのイントロを演奏し、これで盛り上がらないわけがない。着席の観客が総立ちになってのグローーーーリアの大合唱。この瞬間、“とてもいい”ライブが形容しがたいレベルに跳ね上がった。最高では足りない、そういうライブになった。
アンコールはBANGA。客席からギターを弾ける人を呼んだところおじさんが出てきて(といっても客層からすれば若い方)、レニーの押さえるコードを見ながら必死で弾いている。カッコいいだろ。相当な勇気が必要だったと思うが、それに見合う栄を得たんだから本人もうれしかったろう。
最後はもちろんPeople Have the Power。詩人パティ・スミスにしてはあまりに直截な歌詞に、以前は好きになれなかったこの曲だが、僕もだんだん丸くなったのかこの曲で素直に盛り上がれるようになった。
前方のお客さんは握手したりやなんかで正直うらやましかったが、まあそれは仕方ない。そんなことがなくても十分以上に楽しめたし、記憶に残るライブになった。
パティが撒いた花びらを持ち余韻にひたりつつ歩いて帰宅。こういうとき、電車なんかに乗らずにすむのはありがたいな。
帰ったらなぜかドアに鍵が刺さってて、妻が抜くのを忘れたらしい。そそっかしい奴だが、それも家事をギリギリまでやってくれたからだろう。月曜は早朝起こされる羽目になりそうだが、まあしょうがない。