怠惰な日々

 *blogではありません。日記です。

水島散歩など

ネットカフェを出る。ペイペイを使うと割引になるというので今さら使い始める。やりたくはないが、まあ金のためだ。

大好きな岡ビルへ行き、盛業中のお店を眺めてから松下うどんで朝食。とりあえずおいしかった。昔ながらの店ではなく、最近若いひとが始めたのかな、ここ。

JRで倉敷へ。ここから水島臨海鉄道に乗り換えるつもりだったが、大原美術館の看板を見かけたのと、せっかくだから倉敷観光もいいかと思い、案内所に行くと、大原美術館は開館しているとのこと。休み明けだから閉館だと思ってた。しかも割引券までくれたので、もう行かない手はない。以前、青春18きっぷの旅のとき訪れたことはあるが、かなり疲れてたからあまり鑑賞できなかった記憶がある。今日は大丈夫だろう。チケットはまたペイペイで払った。

平日の大原美術館は人が少ない。ゆっくり見れそうだ。そして作品は名品ぞろいで、僕の趣味と合わないことなんてどうでもよくなる。このレベルならさすがに眼福だ。キャプションも丁寧で、展示方法も言うことなし。さすがとしか言いようがない。

記憶にはなかったが、本館の最後は現代美術もあるし、別棟にもあった。陶芸は相変わらずわからないが、棟方志功も日本の洋画家も、いいものを見せてもらった。

そして黒宮菜菜が横溝正史を題材に制作した新作が、ものすごくよかった。黒宮菜菜はKCUAなどで見て注目はしてたのだが、その期待を大幅に上回っていた。作品のスケールの割に展示室が狭かったのが残念で、いつかもっと大きな空間で再見したい。

庭や別邸などで休んでから駅へ。

水島臨海鉄道、本数が少ないようで、急ぎ足で乗り込んだ。

地図を見て直感から降りる駅を選ぶ。とりあえず弥生という駅がいいだろう。

駅前には、かつて新興だった住宅地が広がっている。かれこれ40年前というところだろうか。当時ここに住んで水島の工場に通った人たちは老人となり、今の工場はオートメーション、子供たちは岡山や大都市に出て行ったのだろう。平日ということを差し引いても寂れてる。かつて栄えた痕跡があるだけに物悲しい。僕の故郷も似たようなものか。うろうろと四方をうろつく。見えるのは死にかけた街だ。そして昼をとうに過ぎたというのに、飲食店は見当たらない。困ったもんだ。どうにもならないわけはないが、せっかくだからここらの飲食店でなにか食べたい。ごく普通に。しかしその飲食店がない。ロードサイドでも飲食店は成り立たないようだ。時間が経てば経つほどランチタイムが終わってゆくぞと焦り始めたところに、役所を発見。市役所の支所らしく、ありがたいことに食堂が併設されていた。かなり安いので本来は職員食堂だったのかもしれないが、今の時間帯は一般のお客さんばかり。それにしてもいい食堂を見つけた。味とか安さとかそういうことではなく、このどうでもよさ、何気なさが好ましい。うれしいことだ。まばらなお客さんが醸し出すのどかな雰囲気はよい。安っぽい店のあちこちをよく見ると売店跡のようでもあり、そういうディテールもいい。お腹も満たせたし。

満足してまた歩き出す。

栄、そして常盤の駅前あたりになると少し商業施設も見られるが、閉店した店や息も絶え絶えな店、新規オープンした店が入り混じる。工場は今もあるが、労働者はここにいないか、いても買い物や飲食はロードサイドに流れているから、この辺りでは商売にならないのだろう。歩いているのは僕だけで、タクシーも暇そうだ。すまん。

歩きに歩いて、休憩に喫茶店でもと思ったが、思い直してマクドナルドに入って無料キャンペーンのコーヒーを飲む。携帯の充電も少しする。新しい出来たてのマクドナルドも暇そうだ。

工場へ向かって歩き出す。工場の近くまで行っても、たいして何も見れないだろうが、しかし水島に来て工場を見ないわけにもいかないだろう。てくてくと歩き、とうとう三菱自動車JFEスチールなどの工場まで来た。夕方になり、退勤の労働者が車で出てゆく。通勤が車なんだから、鉄道は客がいないし飲み屋も潰れるのが道理だ。水島臨海鉄道は通勤用に引いたようなものだってのに。

道路からは工場の様子はあまり見えないが、それでも雰囲気は伝わる。僕が企業城下町で育ったせいか、工場というものに愛着がある。歩き回ったあげくにこんなことしてるのは馬鹿だけど、でも楽しかった。

ますます暮れてきたので足早に来た道を戻る。途中、小高い山があり、登ると小さな展望台があって、そこから工場の夜景を眺めた。ピカイチの場所ではないだろうが、瞬く工場の光は美しかった。散歩だかジョギングだかのひとに胡散臭く見られながら、水島駅方面へ。

もうすっかり夜で、暗い道をとぼとぼ歩く。さすがに疲れ果てた。でも水島の駅前あたりまでは歩いてみたいし、岡山に戻るには水島まで歩くしかない。荷物が重い。置いてくりゃよかったなあ。

水島の駅前あたりがどうも一番栄えてたし、今でもそこそこ栄えているようだ。あくまでも比較的だけど。

歩いてて見つけたのは「ラーメン」とだけ書いた提灯をぶら下げたボロ家。冗談じゃなくボロい。家としても人が住んでるかどうか疑わしくなるくらいだが、灯りが点いてるし客らしい母子もいる。

思い切って入ってみると、さすがボロだけあってメニューが見当たらない。ラーメンはあるだろうしおでんも煮えてる。値段はわからない。ばあちゃんとじいちゃんがやってる店で、頑固で愛想もなさそうだが、常連らしき母子とは仲よさそうだ。

さてラーメン、これがめちゃくちゃ旨い。コショウとニンニクがかなり効いてて、そのバランスが絶妙。驚きの旨さ。このボロ家でやっていけるのはこの味があるからだろう。看板すらないんだから。おでんは普通だったが、ラーメンはおそろしく美味い。もしほかにも出せるなら食べてみたいものだが、そんなに食べられないし、愛想のないばあちゃんとじいちゃんに話しかけるのは厳しい。それにしても大当たりだった。

水島から常盤にかけては、新しいビジネスホテルがあるし歓楽街もあってスナックは5軒に1軒くらいは生き残っているようだ。客引きがいるから風俗店もあるようだが、「若いコいるよ」っているわけないだろ。

いろいろ侘しさも募るエリアだけど、いろんなものが見れてよかった。水島なんて、歩いて楽しいのかなとも思ってたけど、いや楽しかった。来てみるもんだな。30年前だったら、かなり違う風景が見れたんだろうし、そう考えると昔歩いたあちこちも今は変わってしまってるんだろう。それが衰退する日本の現実なんだろうな。

香水の匂いがするお姉さんと一緒に水島臨海鉄道に乗り、倉敷でJRに乗り換え再びメガロへ。昨日と同じ店員さんはまたかよと思ったろうが全く表情に出さず昨日と同じ場所を割り振ってきた。やるな。

ところでこのメガロ、マンガや雑誌がめちゃくちゃ古いんだけど。こういうネットカフェもあるんだな。