怠惰な日々

 *blogではありません。日記です。

東北へ行ってみる1

眠りはやや浅く、予定通りに起床。
電車に乗って、特に問題はなかったのだが、乗り換えに手間取ってJRを乗り逃がす。まあいいかと思ったのもつかの間、到着が30分後になってしまうのが判明しがっかり。これならもう20分寝てる方がマシだった。
まあ仕方ないのでのろのろと進む。初めて茨城県に入り、2時間余りかけて水戸に到着。
思ったより風が強いしマフラーを忘れたので寒い中を歩き、水戸芸術館に到着するも、お休み。休業期間は確認したつもりだったのだが勘違いだったようだ。ダレン・アーモンドを見たかったし志賀理江子や石田尚志を見たかったが、お休み。どうにもこうにもならない。休みとわかっていればせんだいメディアテークをお目当てにする選択肢もあったのに。愕然としたが、仙台に行くとなれば宿にたどりつけなくなる。今更宿の変更をするわけにもいかないし、渋々だが茨城県近代美術館へ。「聖なるものへ」展を鑑賞。
がらんとした美術館で静かなのはいいが監視員の視線が痛い。
宗教画が多いのはともかく、展示作品も館蔵品が大半で、あまりぱっとしない。まあ珍しいものを見れたと思えばいいけど。ただ、その中でも舟越安武、舟越桂の作品は光っており、特に舟越桂の「青い遺跡」「戦争をみるスフィンクス」は素晴らしいもの。しかもこの二つは個人蔵で、おそらく見る機会は限られているだろう。舟越桂はほかに作家蔵の水彩画も一点出ており、やけに力が入っている。秀島由己男や長谷川潔などもあって展覧会の後半はだんだんと持ち直してきたし、最初の印象よりはいい展覧会だった。
常設展は郷土の作家が中心だが、なにしろ郷土の作家が中村彝や小川芋銭などだからレベルは低くない。突然ルノワールが出てくるような取りとめのなさは勘弁してほしいが、コレクターから寄贈されたという版画コレクションもかなりのもので、まずまず。
それにしても舟越桂の作品を「センスがない」と何度も大声で罵っていたおっさんは何がしたかったのだろうか。
ぐるっと回って駅に着き、とりあえず長崎亭というちゃんぽん屋で昼食。定食メニューも多いが、ここはやはりちゃんぽんがいいのかと思い大盛りで頼んだらほんとに大盛りだった。具もスープもいいけど、麺はまるっきり太いラーメン麺なのががっくりする。あれはないよなあ。黄色くて臭いし。でも女性店員さんもきびきびしてるし、割といい店だと思う。まあここまで来てチェーン店に入る気はなかったし。
次の電車まで少し時間があるので散策。さすがに水戸だけあって東照宮がある。その下には寂れた商店街があり、アーケードは屋根がなく青空が見える。いい雰囲気だ。
電車に乗り込みいわきへ。部活の中学生が騒いでいる。いじめのようにも見えるしいじられキャラにも見える。わからない。ただ体育会系の連中は嫌いだなということを再確認した。
いわきに着くと、予想外に立派な駅で、駅前もビルが立ち並んでいる。もちろんそれほど人が多いわけではないのだが、こんなに栄えているとは思わなかった。ただ、再開発後のような風情のなさで散策する楽しみも少ないかなと思ったのだが、歩いてみるとブルボンという奇想な喫茶店や小さな風俗街や落ち着いた教会や社殿の失われた神社などそれなりに記憶に残るものが見れた。といっても30年後にはあまり覚えてなかったりするのだろうが、まあいい。面白かった。
そこからさらに北へ、久ノ浜ゆきの電車に乗る。
久ノ浜はその名の通り海に近く、しかし駅前はさほど津波の被害を感じさせず、古い洋品店が昔のままに営業している。しかしそこから海側は壊滅的な打撃を受けたようで、家々の土台が一面に広がり、そのなかにぽつりと丈夫そうな建物が見える。建物は鉄筋コンクリートのアパートで、窓からは海が一望でき、ざわざわと海の音が耳に残る。しかしサッシはへしゃげ、強烈な波の力にひとたまりもなかった様子もはっきりと残っている。
神社も残っており、これは少し高くなったところに社殿と鳥居が残されている。どうしてこういうことになるのかよくわからない。わからないが、しかしそういうものなのだろう。不思議な思いで歩くと、電車の時間はどうでもよくなり、ひたすら歩き続けた。もうひとつ神社があったのでそちらにも手を合わせる。いや、あちこちに祠がある。海の近くなのに井戸の跡が多い。大破した家の隣になんとか踏みとどまった家がある。道路を一本隔てただけで被害の程度が違う。写真で見るのとは違う、自分の足で感じる重みがあった。寒い中を2時間ほど歩く。閉まったスーパーもある。元気に営業している店もある。コインランドリーをみつけ、中で椅子に腰かけ暖をとる。真冬の一人旅の時にはよくやったものだ。コインランドリーは暖かいのだ。置かれている風俗雑誌を読んでいるとご主人が入ってきて話しかけてきた。さすがに客ではないとは言えないのだが、まわっている洗濯物が終らないうちに出て行ってくれたのでありがたかった。少し肝を冷やした。風俗雑誌があるのは、たぶん復興に係わる作業員さんらが遠方から来ているからだろう。僕もその一人と思われたのかもしれない。
名残惜しいが電車の時間が来て、駅へ。なにしろ寒いからなかなか辛かった。駅員さんが「5分くらい遅れてくっから」というのでえっと思ったがそうだった。もう2駅で終点だし、そんなものなのだろう。
そして終点広野へ。日はとっぷりと暮れている。火力発電所の巨大な煙突から出る煙を見ながら歩く。もちろん店など開いてない。予習通りセブンイレブンがあったので弁当とカイロを買う。当然のように券が使えたのには驚いたし、女性店員さんがとても感じのよい人だった。
さらに歩く。空を見上げると瞬く星が見える。こんなに星があるんだと思いながら歩く。星座の知識はないが、星座を自分で作りたくなるような星たち。きれいだ。
歩くこと40分、バリュー・ザ・ホテル広野に到着。歩いてくる客なんかいないホテル。少しの訛りが好もしい女性のスタッフに説明を受け、部屋へ。端部屋だしいい感じだ。弁当を食べたりしてほっと風呂に入る。早めに就寝。疲れた。