怠惰な日々

 *blogではありません。日記です。

阪神で尼崎へ。この難波線をフルに乗車するのは初めてかもしれない。新線は料金と乗車時間が見合ってないから意外とすぐに尼崎に到着。ホームから改札へと降りると、昔と変わらぬダシの匂いがする。これだ。20年ほど前は毎週来ていた時期もあったが、もう何年ぶりだろうか。5年なんてもんじゃない。10年は固いだろう。商店街にも見慣れないチェーン店が目立つ。見覚えある店もちらほらだが、それ以外はどこに何があったかなんて全くわからない。あのころ、もっといろんな店に行きいろんな体験をしておけばよかったと今になって思う。いつだって後悔の連続だ。
出屋敷方面に歩き続ける。出屋敷には駅ビルに閑散としたダイエーがあったし、その真向かいには大衆演劇小屋なんかがあったのだが、どちらも残ってないだろう。そういえば小さな古本屋もあったし、甲子園球児の宿もあった。影も形もないだろう。この出屋敷・尼崎を舞台にする「赤目四十八滝心中未遂」のラストは主人公があのアパートに戻る場面だったかと記憶している。あの主人公ほどの感慨はないにせよ、思い出との距離を突きつけられるのは無駄に長生きした人間の定めなのだろう。もっと早く死ぬはずだったのに。
時間が時間だから出屋敷に近いほうの商店街はほとんどシャッターが降りている。こんな時間に来たことはなかったからよくわからないが、僕の知る20年前は活気とまでは言わないにせよ、そこそこの商店街だった。おそらく今はずいぶん違っているのだろう。そんな商店街のさらに外れのほうにtoraがあった。ライブハウスは立地のおかしいものがときどきあるが、このtoraに至っては周りになにもない。建物は密集しているが営業している気配がない。少なくとも夜はぽつんと営業している。
さてと思ったところになぜか懐かしい人から電話があり、こんな日にお誘いがあった。行きたいのはやまやまだが、ライブの予約をしているのに行かないわけにはいかない。丁重にお断りをした。残念だ。もしかしたら最後の機会だったのかもしれないが、僕には僕の筋がある。
気持ちを振り切ってtoraへ入る。
思った通り小さなライブハウスで、見たところたぶん防音はたいしてやってない。それでも営業できるのはこのシャッター商店街だからこそなんだろう。山本製菓では無理だ。受付とドリンクを1人で兼ねるシステムで、これは扇町パラダイスよりも小ぶりだ。
最初が自転車SO業舎。このライブハウスにはぴったりなイカれた二人組。上手いわけではないが、むしろそれがパワフルな魅力になってる。
影野若葉は今回はいつも通りの弾き語り。どこであっても自分のスタイルを貫いていて、右顧左眄しない。僕から見れば若いけれども、ミュージシャンとしてはもう長くやっているから当然か。聴けば聴くほどギターが上手くなった。1年前はギターと格闘というよりなんとか抗っているくらいで、息を切らしている風でもあったが、今は堂々と弾きこなしている。こういうところに成長というものを見られるのはライブの楽しみの一つ。先日出した音源の曲も演奏していた。
ノラ一味は、このバンド名しかないなという暴れっぷり。大暴れ。三匹の子ぶたで言うとここは藁の小屋でノラ一味がオオカミ。解放感あふれるライブで、今日の収穫だった。
トリはヨヲコヲヨ。ノラ一味のあとの熱い空気を冷ます流れは絶妙で、こういうとこにブッキングのセンスというものの価値がある。ゆったりした大河の流れを思わせるギターと歌。この流れのせいもあるかもしれないが、過去で一番のヨヲコヲヨさんだった。
帰り途は意外と近かった。いいライブを見れたからかな。