怠惰な日々

 *blogではありません。日記です。

春の東京2

朝は懸案の古城へ。場所を盛大に勘違いしててうっかり開店時間には遅刻してしまったけど、平日の9時に客が多いわけはなく、しばらく独占できた。モーニング600円はどう考えても高いけれども、ここはケチるところじゃないので。お歳だが元気な女主人なのでしばらくは店も大丈夫だろう。いくらでものんびり出来そうだけど、2人目の客が来たのを潮時に東京駅へ向かう。予定よりちょっと遅刻になるけどそんなのどうでもいい。
三菱一号館美術館は開館8周年とのことで、付箋をいただく。今回は「ルドン」展。目玉は所蔵品の「グランブーケ」とオルセー所蔵のドムシー男爵邸食堂壁画の展示になるのだが、あろうことかこれが再現できてない。食堂をぐるりと囲む壁画を2室に分けて展示するのでは、わざわざまとめて借りてきた意味があるのか。もちろんやりたくても三菱一号館美術館の狭さではできないからそうなってるのだが、だったら再現できるところでやるべきで、ほんとなにやってるんだか。それはともかく、作品としては結局グランブーケと「若き日の仏陀」の2作が群を抜いており、それがいつまでも頭に残る。ルドン、なんだかんだで好きなんだけど、見惚れてしまう作品はやはりごく一部。それを延々眺めてたらそれでいい。
そしてなにやらのイベントで近隣書店との合同スタンプラリーをやっていて、そんなのやってる暇はないのだが、そこは僕なのでやってしまう。単にスタンプを押すだけでなく買い物もしなければいけないので、昨年の展覧会のときには荷物になるから買わず大阪の本屋で買おうと思ってまだ買ってなかった荒木経惟「センチメンタルな旅 1971-2017-」をこの機会に購入。荷物になるなあ。
道すがら丸の内にある東京大学のインターメディアテクに立ち寄る。ここのギメルームに興味がありつつも、なかなか時間が取れなかったのだが、来てみるとなんとまあ最高のスペース。骨格標本あり剥製あり、ある種の人間には狂喜乱舞ものの場所だった。ここに住みたい。澁澤龍彦が生きてたら大興奮だったろう。
さらにはケ・ブランリ・ジャパンと称するコーナーまであり、こんな素晴らしい場所を俺は見逃してたのかと思うと自分の愚かさを詰りたくなる。しかも無料。なにこれ。東京大学ってお金余ってるの?
展示はごく一部を除いて大きく変わることはないだろうから、のんびりまた行けるときに行こう。入場料代わりになにか良さそうなグッズとかもあれば買いたい。
スタンプラリーの成果を美術館で引き換え、トートバッグと一筆箋をゲット。ヴァロットンがプリントされたトートバッグは生地の厚いけっこう立派なもので、ちょっとありがたい。こうして無料でもらったものでもなんだか使うのが惜しくなってしまう性格だけど、使わないまま死ぬのももったいないので使ってしまおう。
久しぶりにエリックサウスへ立ち寄る。ビリヤニが残ってるかどうかが気掛かりだったが、幸い残ってた。これはラッキー。ミールスももちろん美味しいけど、やはりビリヤニを食べたかったから。久しぶりのビリヤニ、とても美味しかった。よかった。ただ、荷物をたくさん抱えてたのに、入れ物を出してくれなくて結果席の周辺に山積みしたけど店員さんは全く見て見ぬふりというのはなぜ。忙しすぎて気を配れなくなっているのかも。
銀座エリアの展示はまず日動コンテンポラリーの劉致宏(リュウジーホン)から。これは凄かった。山の中の道路を描いた作品が多いのだが、ある程度の時間の流れを一枚の油彩に表したことがひと目でわかる。素晴らしい才能だ。日本初個展とのことだが、これは今後名を上げるに違いない。そこそこ美術に関心のある人ならこの凄みがわかるはず。将来が楽しみだ。
その後はギャラリー小柳で中川幸夫束芋束芋さんのドローイングが見れたうえに、中川幸夫の諸作品も素晴らしく、相性がいい。これはいいものを見れた。ポーラアネックスは素通り程度で、シャネルネクサスホールでサラ・ムーン。サラ・ムーン、まあそりゃいいんだけど、あまりにもストレートなのでどうもたじろいでしまい、見る喜びのようなものはあまりない。好きな人は多いと思うけど。AKIO NAGASAWAはグループ展で、有名な作家の有名な作品がいろいろ見れた。月並みな感想だけど、実際それなんだよなあ。東京画廊BTAP「韓国・五人の作家 五つのヒンセク〈白〉」は非常に高水準の展示だった。
オペラシティの「単色のリズム 韓国の抽象」展が気になりつつも見に行けなかったのだが、これを見るとやっぱり行くべきだったなと改めて残念になる。それほどの質の高さ。ギャラリーには出品作家さんなのか関係者なのか、裏話のようなことをずっと話している男性がいて、話は面白いのだが気兼ねしてしまい鑑賞としては不完全燃焼だった。資生堂ギャラリーは今日から「蓮沼執太: 〜 ing」展。夕方にイベントをやるとかで蓮沼さん本人が来ていたのはいいが、イベント設営のため展示はきちんと見れなかった。仕方ないか。これも不完全燃焼。銀座エリアの最後は第一生命ギャラリーでALL VOCA賞。いくら自社ビルの一階だからといって、平日のビジネスアワーにしか空いてないなんて手前味噌もいいとこだろう。無料で開放してくれてるんだから文句は言わないけど。作品は大作ばかりでどうも大味だけど、後の有名作家も含まれていて見ごたえはある。大誤算だったのは、過去の図録をいくつか無料で配ってたこと。喜んで頂いたものの、重くて重くて重くて大変。貧相なトートバッグの持ち手がちぎれそう。しかもこの強風だからほんと厳しかった。
六本木へ出て、時間的に21デザインは難しいかなと思ったので、ピラミデビル周辺をまわる。最近は東京の強行スケジュールにも慣れてきたけど、荷物が重くてはさすがにしんどい。
ギャラリーmomoで大坂秩加版画展。旧作なので見覚えのあるものも交じっているが、こうして個展で見るとなかなかの質の高さ。そしてテキストを交えているところがまた面白味があり、将来大化けしそうな予感もする。過去のリーフレットを1000円で購入。小山登美夫ギャラリーでは今日からのライアン・マッギンレー「MY NY」。ごく初期に撮られた作品群はライアン・マッギンレーの魅力爆発というべきもので、やはり若い時の作品はその作家の個性をよく示していると思う。タカイシイとシュウゴアーツにも行き、ワコウ・ワークス・オブ・アートでミリアム・カーンの写真作品「photographs」展。展示替え中のようだけど見せてくれるというアバウト感がいい。やっぱり油彩がいいとは思うのだが、写真もミリアム・カーンらしさがあって悪くない。ふらっと入ってきた美術なんて大して知ってそうにないおじさんが、「へー、いいねえ。何て人?あれ大きいね!これがカタログ?じゃあ買うよ」というスピード感で作品を楽しんでおり、こういうナチュラルさを忘れちゃいけないなと思った。油断すると僕はすぐしかつめらしい顔をしてるから。
いい時間になったので恵比寿へ行き、東京都写真美術館の夜間開館へ。着いたのが18時ごろで、もうかなり静まりかえっている。居るのは根っからの美術好きだけ。お互い干渉せず、静かに一人ひとりで作品を見ている。いい空間だ。いつもはライブに行く都合上、こういう時間には見れないけど、ほんとはこの時間帯が一番いいのだ。やっとわかった。見た展示は
「『光画』と新興写真」と「清里フォトアートミュージアム収蔵作品展 原点を、永遠に。−2018−」。光画のほうは昭和初期の関西作家が中心になるので、わりと見慣れたジャンルになるので新鮮さはあまりないが、関西で見るのとはやはりなにか違う。
清里フォトアートミュージアム収蔵作品展は、予想外に作品が多く、かなりのボリューム。普通は横一列に並べるところ、何列にも作品が並んでいたりする。作家も作品も高水準なので、じっくり見ていきたくなるし。これで無料というのはちょっと大盤振る舞いしすぎなのでは。ラッキーだった。個人的には、藤原新也「印度放浪」のオリジナルプリントを見れたのは感激。
20時ギリギリまで見て、そこから夕食のためにつつじヶ丘へ行くつもりだったけど、世界堂がせっかく21時までやってるから先に額を見に行く。しかしこれはと決めた仮額にはアクリル板が付いてないことが判明。仮額にはアクリル板がない。常識なんでしょうけど、知らなかった。無理に付けると油彩に接してしまうからむき出しで飾るしかない。となるとさすがにためらってしまう。ほかに同じような額はないようなので、結局時間をロスしただけになってしまった。
21時ごろに懐かしの京王線に乗った。
つつじヶ丘に着くと、そこはいつも通り馴染み深い光景。
オリジン前を通ってクルアタイへ向かうと、新しくレコード屋ができてたりして、街は少しづつ変わっているようだ。いつかそのうち見慣れない街になるんだろう。シャルル洋菓子店はまだ頑張ってくれてる。気持ちのうえでは一つ買って食べたいけど、さすがに無理。無理だけど、あの耳の不自由なおばあちゃんからケーキを買いたい。おじいちゃんが黙々と作ってるケーキを食べたい。古めかしいけど、おいしいあのケーキを。
そんな感傷のなかでたどり着いたクルアタイ、なんと終わってる。営業時間としてはまだあるはずだが、変わったのかそれとも不入りなので早々に閉めたのか。中で片付けしてる気配もないから、もしかしたら臨時休業だったかもしれない。残念だ。
もちろんこの時間だとシェフも閉めてるので、わざわざつつじヶ丘に来た意味がなくなってしまった。あーあ。
だけどそんな中でも意味を見つけようとしたら、残るは蘇州園のみ。遅い時間だけど行ってみた。おじさんとおばさんが暇そうにしてた。休んでるとこ申し訳ないけど、2品作ってもらった。ビールも飲んだ。美味しかった。いい店なのに意外とお客さん少ないんだけど、がんばってずっと続いてほしい。おばさんはいつも親切だ。おじさんの料理は美味しい。クルアタイもシェフも行けなかったけど、これはこれでよかった。こういう時間が必要だった。なんかほっとした。
少し酔った頭で渋谷、そしてホテル。時間的には結局ライブ帰りと同じくらいになり、夜を狭いカプセルでもてあますようなことはなかったし、今後もし目ぼしいライブがないときはこういう動きかたも考えよう。