怠惰な日々

 *blogではありません。日記です。

何かとても気分がいいこと

久々の日記。昨年夏に自己嫌悪に陥るようなことがあって以来、ずっと休んでいて、いつか復帰しようと思っていた。そのいつかはこの日だった。

昼ご飯を食べてから摩耶方面に向かった。目的は摩耶観光ホテル。略してマヤカン。
ヒトマイマイさんの日記を読んで、ああこういうところがあるのかと思い、関西にいるうちに行かなければという思いとあまり暑いとつらいという判断からタイミングをうかがって、10月はいろいろ用事が多いしシルバーウィークは人が多そうだしということで、今日。本当は午前のつもりだったが、妻もちょうど昼から出かけるそうだし、もし時間がかかるとおなかが減るしということで、午後。暑さが少しぶり返してきたのが残念だが、といって延期すると何があるか分からないので決行となった。結果、正解だったのだが。

阪急の六甲駅で降り、坂をのぼりながら登山口を目指す。このあたりは山裾のため、結構な急坂になっていて、登山口ですでにかなりくたびれてしまった。元気なつもりでも体がなまっているのはどうしようもない。目印の柵はすぐに見つかった。道はしっかりついていて、藪をかき分けることはなさそうだ。ヒトマイマイさんは途中で迷ったようなので心して登ってゆく。ハイキングとしてはかなりの傾斜で、ところどころにロープが渡してあるからなんとか登れるものの、足元は乾いた土砂でずるずると滑るから、かなり厳しい。ようやく一つ目の鉄塔にたどり着く。ヒトマイマイさんもここまでは迷わなかったようだからここからが本番だ。道なりに進んでいくと2つ目の鉄塔を発見。すぐに3つ目も。ヒトマイマイさんは書いてなかったから、この時点で既に迷っていたのだろうか。しかし思い返してみても、迷うようなところはなかったように思うから、この先が問題なのかもしれない。休み休み進んでいくと、だんだん明るく平坦になってくる。楽に歩ける反面、クモの巣や藪が多くなってくる。そして木々の向こうに大きな影を発見。到着したようだ。

ホテルの周りは藪がすごく、ホテルに入る階段のあたりだけ少し藪をかき分ける感じになるので、横手に回ってみると、立ち入り禁止の看板(とバリケード)の横がぽっかりと開いていた。
入ってみると、正面奥の部屋に誰かがいるのが見えた。4人。よく見ると、装飾の多い、ゴシック系というのだろうか、そういう衣装を着ている。女性のようだ。警備員やタチの悪い若者だと逃げるところだが、たぶんお仲間のようで一安心。向こうから「すいません・・・」と声がかかり、こちらも「どうも・・・」と返す。衣裳が不思議なのはともかく、一応大丈夫ってことでほかを見て回ることにする。

大正期に建てられたものと聞いた通り、窓や照明の意匠が凝っており、ガラスが割れていたり物が落っこちていたりという壊れ具合がすごくいい。一人だと怖くなるかもしれないが、一応人の気配がしていることもあって安心してまわれる。実際、一人でしーんとした中を進んでいくのは想像しただけで嫌だ。あんまり大人数で騒がしいのも嫌だけど。
先ほどの4人とバッティングしないように、邪魔しないように、と思ったが、そう広くないから結局のところ目に入ってしまう。何か写真を撮っているようだ。もちろん僕も写真を撮っているけれども、それとは何か違う、廃墟を撮っているというよりは廃墟を舞台に撮っている感じ。衣裳といい、何かバンドとかそういう活動のためなのだろうか。考えてみると、ここでPVなんかを撮るとよさそうだ。
なにしろ女性4人だから結構話もはずんでいるようで、講堂?大ホール?の真ん中でずっと楽しそうにしている。僕も大ホールに入りたいのだが、邪魔をしてはいけないと思い、遠慮する。

ただ、後で思ったことだが、遠慮するとかでなしに、ずかずかと一度入っていって、怪しくないですよ(怪しいか)、こういう人ですよ、としっかり挨拶(というと大げさだが)しておくべきだった。向こうは4人とはいえ女性ばかりだし、不審な男(しかもおっさん)が周りをうろうろしていたら心配にもなるだろう。そこはこっちが気遣うべきだったと思ったのは後の祭り。こういうところが対人関係にダメなところなんだ。次からちゃんとしよう、ってたぶん次もできないんだ。いや、きっと。

倒れた石柱のようなものに腰かけて水を飲んでいると、一行の一人が「廃墟好きなんですか?」と声をかけてきた。そういうのでいいんだよなあ。何を言えばいいとか、邪魔かなあとか、そういうことじゃないんだよ。
廃墟は好きなんだけど、大好きで各地をまわっているほどではないので返事も曖昧になってしまうが、行程の話になるとこちらもきちんと話せる。途中でリーダーっぽい女性も加わって話を聞くと、どうやら正規ルートで来たらしい。案の定チェックは厳しかったようだが、変なことをしそうには見えないから見逃してもらったのかな。リーダーっぽい女性が一度来たことがあり、仲間を連れて来たようだ。趣味の撮影のため、と言っていたから、写真作品なのか、それともバンドとかなんだろうか。衣裳だけでなくメイクもしてたから、結構本格的だ。晴天の下、緑に侵されつつある廃墟の中で風に吹かれて見知らぬ若い女性と話しているって、妙な感じだ。仕事以外で(仕事も含めてもか)若い女性と話をすることなんて何年ぶり、いやもっとか。もちろん向こうは妙な感情があるわけでなく、むしろ怪しい男のがうろうろしているよりはということで意を決したのだろうけれども、それはそれとして、その時僕の中には何か言い表すことのできない、これまでほとんど経験のない感情があった。それは恋愛とか欲情とかそういうセクシュアルなことではなく、心の中のどこか一部分が今までもこれからも接点のない名前も経歴も何も知らない、どこかの誰かと奇跡的に触れ合っているということだ。文章にするとちょっと気持ちが悪いけれども、生来の人間嫌いである自分にとって、そういうことが起こること自体がちょっとした奇跡なのだ。たぶん一部の(もしかしたら大部分の)人にとっては、こういうことって別に珍しくもない日常の一コマなのかもしれないが、僕のような人間にとってはたぶん記憶の中で大きなウェイトを占める一コマなのだ。たとえばゆらゆら帝国のライブで助けてくれた人のこととか、ブダペストの郊外列車で降りる駅を教えてくれたキティちゃんファンの人とか。

その人がどっちなんですか?と歩き出したのでぼくも歩いていき、簡単に教えてあげる。こういう行動力って自分に全く欠けているもので、僕だったら適当に話を切り上げて終わりだろう。知らない人と二人でその場を離れようなんてしないだろう。本当にうらやましい。
でもあまり一緒に行動するのも悪い(その人はよさそうだけど、ほかの3人はまた違うだろうし)ので、1階に降りるからと切り上げて別れる。
最後に、今日用意してきた地図を進呈して別れた。もしかしたら遠方から来たのかもしれないし、もう来ないかもしれないし、そもそも女性向きのルートではないから意味がないかもしれないけれども、僕はもしかしたら話しかけたかっただけのなのかもしれない。それにしても、相変わらず人の顔を見れない奴だな。まあこのシチュエーションでじろじろ見てはいけないとも思うけど。

帰りはもしかしたら迷うかも、と思っていたがそんなこともなく順調に下山。3回滑りましたけどね。彼女らにお勧めしませんと言っただけのことはある。