怠惰な日々

 *blogではありません。日記です。

ひこにゃん

早く目が覚める。予定より少し早め、9時の新快速で滋賀に向かう。
能登川で降り、すぐタクシーに乗ってしまったのはもったいなかったろうか。風情のある町並みで、以前一人旅をしていたときなら興をおぼえたことだろう。そういえばあのとき滋賀には立ち寄らなかった。今にして思えばもったいないことだったが、九州人からすれば滋賀になにがしかのイメージを抱くのは無理というものだ。
仕事をすませ、少しまわりを散策。こんもりとした林があったのでのぞきに行くと墓であった。滋賀は平たい土地なので、こういう田んぼの中の林が墓地になっているのだろう。古墳公園は円墳に濠と堤が残っており、珍しい。古墳だけが残されていることが多いが、実際に濠に囲まれたものを見ると、墳墓の重要性が違って見える。神の井というものもあったが、これは昔有力者が寄進した灌漑設備が史跡となっているものらしい。近代のものにこういう名前が付いているのは珍しいが、それほどのものだったということだろう。泰山閣というものもあったが、これは旧家が保存されているものか。
そんな鄙のなかにものものしくも新しい大きな家がある。高陽社迎賓館、とある。確かに立派な建物ではあるが、高い塀の向こうで凶暴そうな犬が数匹うろついていたり塀の上に赤外線装置が付いているのをみるとろくでもない輩が出入りすることは間違いないだろう。
近江鉄道愛知川駅に行く。電車は出たばかりだったので1時間余り待つことになった。少しはなれたところにスーパーをみつけたが休業日のようだ。少しぶらついてみたが医者、コインランドリー、美容院、そんなところ。人家は建て込んでいるがそれだからといって街とはならないのだ。1時間というと長いようだが近江は時間の流れが違う。あっという間だ。切符は昔懐かしい厚紙のもの。これだけで少しうれしくなってしまう。こういう切符がなくなったのはいつごろだったろうか。
おもいのほか普通の電車に揺られて尼子につき、また仕事。ずいぶん古い家がならんでいるなあ、松並木もあるなあ、と思っていたら旧中仙道か。イメージでは山の中の道なのだが、そりゃ平地もあるわいな。往時はきっと賑わっていたのだろうが、今は歩く人はいない。
もう一度尼子駅。だれもいないホームで電車を待つ。誰もいない駅前の誰に見せるわけでもない噴水の音を聴きつつ待つ。この時間が永遠に続いたら、多分ぼくはきっと幸せなのだろう。でも電車は時間通りにやってきて、ぼくはまた電車に揺られる。
彦根の駅から歩き彦根城に向かう。お堀の手前にさわ泉という菓子屋があり、店主が酒饅頭の試食をすすめる。なかなかの味。中に入り、団子セット525円を注文。みたらし団子などが出てくるが、これが美味い。かき氷も名物らしいが、ただの観光客目当ての休憩所ではないようだ。帰途もう一度立ち寄って酒々饅頭を買うことに決める。
彦根城を見学。築城400年記念ということで、特別公開のものがあるとはいえ料金は2倍の1000円。しかもその特別公開がたいしたことないとしたら、憮然とするのも無理はない。まあいいけどさ。歩きつかれてきた。城の前の広場で物産展をやっていて、南京玉簾なんかもやっている。観客はゼロ。演者仲間が見ているのが余計につらい。
キャッスルロードといういかにもいんちきくさいところを少し歩き、結平にピンズを買う。その店で両替をしてもらったが、昔懐かしいおばあちゃんの駄菓子屋だ。観光用とかそういうのではなく、杖をついたおばあちゃんが小さな子供に売っている、本当の駄菓子屋があった。まだそういう世界はあるんだな、と何か少しほっとしたように思う。
彦根城見物は何か義務感のようなところが少しあるのだけれど、彦根のまちをあてもなくぶらついているのは何の義務もなく、もちろん見所もないのだけれど、旅の面白さというのは見所にあるのではないことがしみじみと感じられる。駆け足だったけれど、でもこういう道行は疲れた心を少しだけ新しくしてくれる。