怠惰な日々

 *blogではありません。日記です。

その一瞬を

kikotsu2006-02-17

軍艦アパートに行ってみた。
もうすぐ取り壊しになると聞いたので、今のうちにと思ったのだ。
場所は日本橋から東に少し歩いたところで、人通りの多くない、少し不便な下町である。
なるほど、どうやら立ち退きもほとんど終わっているらしく、店舗が少し残っているだけのようだ。住人の気の赴くままに増築された外観は不思議と統一感があり、あらかじめ設計されたようにすら見える。中に入ってみると、ひと気はなく、がらんとはしているが、2月としては暖かい日差しのせいか寒々しくは感じない。戸口には宅配の牛乳を入れる木箱が残されている。そういえば、昔はこういう箱に牛乳瓶が入っていたものだった。屋上に上がってみると、置いていかれた盆栽や物干し竿がある。傷んでいるコンクリートは新しかったころと違い、自然の一部のような趣をもっている。いつの間にか生まれていつのまにか消えてゆく日陰の植物のように。
棟と棟の間の通路にはなにやらゴミが放置されている。プラスチック製の緑色の小さな傘が段ボール箱をいっぱいに満たしている。傘のくせして昨夜の雨を溜めている。
小さな祠があり、掲示板がある。ほんの少し前まで、ここでは人の暮らしがあり、喜びも憎しみもいろいろな感情があった。
今はもう、人間はここにはいない。そしてもうすぐその残り香はコンクリートの塊に変わる。