怠惰な日々

 *blogではありません。日記です。

ポール・デルヴォー展

福岡県立美術館に来るのは二度目。前回は寺山修司短編映画特集だった。
デルヴォー澁澤龍彦の本で読んで知っていたが、河出文庫の小さなページにモノクロ写真ではその魅力がろくに伝わるわけもない。それでも今日こうして来ようと思う程度の何かが心に残っていたようだ。
さすがに平日だけあって人は少ない。以前大阪市立美術館フェルメール展を見に行った時は入るのに行列、中は満員で人に押されながら見たものだ。あれでは絵画の鑑賞はできない。
まず魅了されたのが「ポーズ」と「ポーズのための習作」。ゆったりと横たわるモデルの肢体がなまめかしく、目を閉じた表情がなんとも言えず素晴らしい。デルヴォーの作品は人物に動きが無く不自然な姿勢を見せているものが多いが、それが技術不足によるものではなく意図的なものだということがわかる。モデルはおそらくダニエルだろう。当時デルヴォーにとってミューズともいえる存在だったはずだ。単純に彼女をモデルとして書けばそれはただのデッサンになってしまうが、画学生のモデルになっている様子を描くことでモデルをミューズとして描くことができる。「海辺の夜」などにあるようないかがわしいひそやかな雰囲気は無く、デルヴォーらしい作品では無いが、しかしこれは素晴らしい作品だ。しばらく前を離れることができなかった。
ジュール・ヴェルヌへのオマージュ」も素晴らしい。画面中央の薄衣を脱ぎ去る女。体は白く輝き、目は大きく開かれているが何も見ていない。
「魔女たちの夜宴」では、魔女たちがなにか話をしているような構図になっているが、声は聞こえてこない。その場を支配しているのは静寂だ。なぜか着衣をたくしあげている女がいる。動作に意味は無く、意味を問うことの無意味さが伝わってくる。他の作品でもそうだが、後ろ向きの人物が出てくる。大勢を書いていれば後ろ向きの人物がいるのは自然だが、声にならない会話が交わされているこの場では、表情が見えないことに不安感が掻き立てられる。
全部の絵の感想までは書かないが、珍しく図録2000円を購入した。