怠惰な日々

 *blogではありません。日記です。

ユダヤの陰謀

ウンベルト・エーコフーコーの振り子」読了。
かれこれ10年以上前、映画「薔薇の名前」を見に行ったのだが、その時評論家が「これは原作の現代思想に関わる部分が抜け落ちて〜〜」と言っていたような記憶がある。
さて実際に読んでみると、一応普通の小説として読めるのだが、いかんせん薔薇十字だのイエズス会だのという基礎知識のない事柄が題材なので、表面しか分からない。澁澤龍彦の本で読んだことはあるはずなのだが、体質にあわないというのかろくに覚えていない。おそらく欧米の読書人にとってはギリシャ神話のように基礎知識なのだろう。
ただ、それでもこの小説がテキストとコンテキスト、意味と実存を扱ったものだということは、そちらにはもう少しなじみがあるから、わかる。
エーコの着想としてはおそらく現代思想のエッセンスを小説の形で提示しようということなのではないかと思うが、題材のおかげで疲れる一冊だった。
ただ、翻訳は非常にこなれていて素晴らしいものだった。今日同じく読了したウラジミール・ナボコフナボコフの1ダース」は中西秀男の翻訳だったのだが、素人目にもひどい翻訳で、本人もあとがきで認めているのがいっそう腹立たしい。先日読んだ「贖罪」と比較すると雲泥の違いだが、サンリオSF文庫では良訳のほうが珍しいから仕方ないといえなくもない。